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岐阜地方裁判所 昭和29年(ヨ)107号 決定 1954年7月24日

申請人 近江絹糸紡績労働組合大垣支部

被申請人 近江絹糸紡績株式会社

主文

一、被申請会社は同会社大垣工場内における寄宿舍、食堂、運動場、浴場、売店、前庭その他当庁昭和二十九年(ヨ)第八九号事件において立入を禁止された別紙図面赤斜線表示の各建物以外の場所において申請組合が言論による説得、又は団結による示威により被申請会社従業員に対してなす申請組合への加入の勧誘を妨害してはならない。

二、被申請会社は寄宿舍々監、寮長、寮母等如何なる名義を以てするを問わず申請組合の組合員の寄宿舍生活に対する役員を指定又は選任して寄宿舍生活の自治に干渉し組合加入の自由を妨害してはならない。又既に指定又は選任してあるこれら役員が寄宿舍生活の自治に関して有する一切の職務はこれを停止させなければならない。

三、被申請会社は申請組合の組合員の通信、交通、面会を遮断し、これらの者の組合加入の自由を妨害してはならない。

四、申請費用は被申請人の負担とする。

(無保証)

申請の趣旨

一、被申請会社大垣工場(但し各作業場を除く)に対する被申請人の占有を解き、これを申請人の委任する岐阜地方裁判所執行吏の保管に移す。

二、執行吏は現状を変更せざることを条件として申請組合の組合員並に未加入の従業員に対し、従前どおり右物件を使用させることができる。

三、被申請会社は第一項記載の寄宿舍、食堂、運動場、浴場、講堂、売店、前庭等において従業員の外出散歩運動等をなす際、申請組合のなす組合加入の勧誘説得、ストライキに必要なるピケッティング等正当なる組合活動を妨害してはならない。

四、被申請会社は自ら又は第三者を使嗾して別紙図面記載の寄宿舍において寄宿舍生活の自治を乱してはならない。

五、被申請会社は同会社指定の寄宿舍々監、寮長、寮母等何らの名義をもつてするを問わず第四項記載の寄宿舍自治に対する役員を指定又は選任してはならないし、且従前指定又は選任してあるこれらの役員はすべて解任し、適当の場所に收容しなければならない。

六、被申請会社は同会社大垣工場長、労務課長その他スパイ等を別紙図面記載の寄宿舍に出入させ、通信の自由、組合加入の自由その他私生活の自由を侵してはならない。

七、執行吏は以上の趣旨の目的を実現するため適当なる措置を講ずることができる。

理由

当裁判所の認定した事実関係並に判断は左のとおりである。

一、争議の経過

被申請会社は従業員約一万三千名(大垣工場は約三千二百名)を使用して絹糸、紡績等の業を営んでいるものであつて従来よりその労務管理並に労働条件は不備、劣悪なる状態にあつたが、従来その従業員を以て組織せられていた労働組合(以下単に第一組合と略称する)は何ら右の如き労働条件の改善等に努力しなかつた。そこで従業員の中にはこれを不満とし、自主的、民主的労働組合を組織しようとする機運があつたが、たまたま昭和二十九年五月二十三日、大阪本店において全国繊維産業労働組合同盟(以下単に全繊と略称する)加盟の組合として近江絹糸紡績労働組合が結成せられたのを機会に大垣工場においても同年六月十日、従業員中千数百名を以て新組合たる申請組合を結成し、会社の手先である御用組合たる第一組合を即時解散せよ等人権擁護を含む二十二項目に亘る要求項目を掲げて被申請会社大垣工場長に要求したが満足なる回答が得られなかつたため直ちに無期限ストライキに入つた。その後申請組合は前記要求項目に関する団体交渉をすべて本社労働組合に委任したが、被申請会社は新組合との誠意ある団交に応ぜず、これを延引して徒らに争議の解決を遅らせる一方、被申請会社は申請組合に対して大垣工場のロックアウトを宣言し、別紙図面表示の個所に金網を張つてその表示とし、その他同工場内の数ケ所に書面によるロックアウトの掲示をした。かくの如く相互に対抗手段を強化しながら団交らしい団交は開かれぬまま今日に及んでいる。

二、臨時人夫侵入の情況

申請組合はストライキに入ると共に第一組合員に対する申請組合への加入の勧誘、ストライキ破りからの申請組合の防衛等のため、全繊等の応援を得て、大垣工場内の正門附近その他数ケ所に数名ないし数十名によるピケを設けているが、昭和二十九年六月十五日午後十一時頃会社側が雇入れた下村組人夫等約二百四十名が同工場内申請組合事務所横附近の門より塀を破壊して乱入し、同所のピケを張つていた申請組合の組合員約三十名その他に対し暴行を加えた。これら人夫等はその後間もなく同工場より退去したが、言論による説得、又は団結による示威を以てする組合加入の説得等申請組合の正当なる組合活動に対する妨害行為が繰り返えされる危険性は多分に現存すると認められる。

三、寄宿舍生活の情況

被申請会社は寄宿舍々監、寮母を雇入れて寄宿舍における従業員の生活を監督させ、又寮長、室長等の寄宿舍自治に必要なる役員を選任し又は指名している。而してこれら寮母等は従業員に対し新組合に加入しないことの調印を求めたり、全繊は赤だから新組合に加入しないように等の説得をしたことがある。

四、その他被申請会社は従来よりとかく従業員の通信、面会の自由を妨げ、殊に申請組合が結成せられてからは、会社はこれを嫌悪し、信書を開封したり、寄宿舍内の交通を妨げたりして、これらの者が新組合に加入することを妨害した事実がうかがわれる。

五、結論

以上認定の(二)の事実は当然申請組合の正当なる組合活動を妨害するものというべきであり又(三)(四)認定の事実も特に若年の女子従業員の多い被申請会社大垣工場においては申請組合が同組合への加入説得等正当なる組合活動をなすに重大なる支障を来すものというべきであるから、申請組合はこれら妨害行為の排除を求め得ることはいうまでもない。而して申請会社が誠意ある団交に応ぜず、争議継続中の現状においてはかかる妨害行為を緊急に排除する必要性の存することも明らかである。唯申請組合は被申請会社大垣工場中作業場以外の部分を執行吏の占有に移すことを求めているが、かかる申請を許容するにおいては同部分の土地建物等に対する被申請会社の所有権を制限し必要なる管理、補修等をなすにも困難を招来するおそれがあるからかかる趣旨の仮処分は現状においてはその必要性がないものといわざるを得ない。そこで当裁判所は被申請会社に対し、申請組合の正当なる組合活動を妨害しないよう主文掲記の事項を命ずるに止めた。

以上の理由により申請組合の本件仮処分申請を主文表示の程度で許容することとし申請費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 奧村義雄 小淵連 佐々木史朗)

(別紙省略)

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